糸遊

3/4
前へ
/310ページ
次へ
「ふーん、そっか。お前が他人事に思え ないなんて珍しい話もあったもんだな」 「ハハッ、ひでぇ」 何回も読んだ本だ。全部の話の大筋は 覚えている。 だから彼に聞き返さなかったんだ。 ”どんな話?”だなんて、無粋にもほどが あるだろう。 確か話の内容はこうだ。仲の良い男女。 女はいつもダメな男に引っかかる。泣いて 帰ってくる女を宥めるのは男の役目だ。 そして男は女の親友でいながら、実は ずっと前から女のことが好きだった。 …7年間、だっただろうか。 この話のどこがお前と共通しているのだ。 まさか誰かに片思いを?しかも長い間? まだ18歳の俺たちは、7年近くも一緒の やつなんて一握り。 俺だって、そう。彼一人だけ。 視界の隅で動いた彼の腕。 「お前の髪は、トリートメントつけて 洗ってないみたいだな」 「褒めてないだろ」 なぁ、いつだってそうだ。 お前は気があるような仕草を見せる。 だけどそれから先には踏み込まない。 なにも言わない。 目は口ほどに物を言う、って言葉をお前は 知っているだろうか。 ーブブブブッ。 テーブルの上の彼の黒い携帯が震え出した。 -
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

691人が本棚に入れています
本棚に追加