糸遊

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「…あぁ、悪い。彼女からだ」 ディスプレイに表示された名前を確認して 彼はその機械を手に取って部屋を出る。 パタン、と扉が悲しく音と共に閉じた。 一人取り残された俺。 可笑しさが込み上げてくる。 俺たちは何なんだろう。どんな関係?と 問われれば”幼なじみ”だと答える。 友達でもない。家族でもない。 細く切れやすいようで、ちゃんと見れば その糸は鋼鉄だったりする。 早く、吐けよ。吐いて楽になれよ。 そんなお前を俺は優しく包み込んで あげるから。 「おい、遊。雨降り出したみたいだぞ。 傘持ってるか?飯食ってっても良いって 母さん言ってるけど」 電話を終えた彼が部屋に入ってきて、俺に 告げた。 「大丈夫。もう帰るよ」 窓に映った空は灰色に染まっている。 遠くでは、雷が鳴っているようだった。 「じゃあ気を付けて。また、呼ぶわ」 「…おう」 高校の違う俺たち。 月に一回呼び出されて彼に会う。 糸遊を捕まえようとしているのは 俺か。それともお前か。 end
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