シグナル

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俺たちは付き合っているわけではない。 強いて言うなら俺の一方通行な片想いと いうことだ。彼は仕事を円滑に進めるため に、自分を餌にしているだけに過ぎないの だと思う。 「…そろそろ、良いでしょう」 「あ、すみません」 彼がもがくので腕から解放させた。 名残惜しく思っていると頭にポンと手が 乗せられる。「吉良の仕事、早いし丁寧で 助かる」と言い残し、俺の顔を見ずに先輩 は生徒会室に戻っていった。 冷んやりとした壁の心地よさを求めて体を 預けると足の力が抜けた。ズルズルとしゃ がみ込んでしまう。火照った頬を壁に押し 付けた。声が自然と漏れる。 「あー…」 好きだ。抱きしめるだけじゃ足りなくて もっともっとと、欲が出る。彼の体温と 匂いがうつった制服に顔を埋めた。 あぁ、なんてあの人は人を操るのがこんな にも上手いのか。 まったく。 (あんなふうに褒められたら 頑張っちゃいますよ、先輩) end -
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