必需品は吉田くん2

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ぬくぬくとこたつに入っていた鈴村が急に 起き上がり言い出した。 「吉田、初詣に行こうか!」 *** 「うぎゃ!寒い寒い寒い! 吉田、手が冷たいよぅ」 「だから手袋貸してやるって言っただろ」 「吉田の手袋大きいんだもん」 手を息で温める鈴村。マフラーから出た 鼻の頭も寒さで赤くなっている。 「人もすごいし」 「そりゃ元旦だから」 近所の有名な神社にやってきた俺ら。 屋台が並び賑わっていた。鈴村が人混みに 流されないか心配でならない。今は賽銭の ために列に並んでいる最中だ。 「しょうがねぇな」 「わ、」 どうせこの人混みじゃ見えないだろうと彼の 冷えた手を掴んで俺のポケットに突っ込ん だ。これではぐれないし温まるしの一石二 鳥である。 「よっ、男前!むっつりすけべ!」 「…褒めるのか落とすのかどっちかにして もらえますかね」 「強面!」 「結局落とすんかい」 「痛いっ」 空いていた左手で鈴村の頭を叩く。てめぇ なんか迷子になっちまえ、と思いながら そうなったら結局面倒なのは自分なので 堪えた。 やっと順番が回ってきて、5円がないという 彼に一枚を渡す。二礼二拍手。いつもこう いうときはなんの変哲もないことしか思い 浮かばず、「今年も元気でいられますよう に」とだけ願った。 -
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