必需品は吉田くん2

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俺が頭を上げた時、まだ鈴村はお願いの 最中で。なにやら真剣に手を合わせていた。 賽銭を終えた後なにをそんなに願っていた のか彼に聞く。嬉しそうに彼は答えた。 「吉田が増えますようにって」 「まだ言ってんのかよ。つか怖いわ。自分 がいっぱいいたら」 「だって、吉田に彼氏が出来ちゃったら 頼れなくなっちゃうし」 「頼むからせめて彼女にしてくれ。…つか 出来ねぇから安心しろ」 しょぼくれている自分より低い位置にある 頭を今度は優しくぽん、と手を乗せた。 俺もこいつに恋人が出来た時どう思うの だろう。俺じゃない、違う奴をこいつが 頼るようになったとしたら。 「…それはそれで、面白くねぇなァ」 思わず出た呟きは喧騒の中に消えていく。 鈴村にも聞こえてなかったようで彼は マフラーに黙って顔を埋めてた。 「来年は、青山も一緒に来れたら良いね」 「あいつ長期休みの度に帰省するからな」 「吉田は帰んないの?」 「兄弟多いから、帰っても邪魔なだけなん だよ。お前は?いつも帰らねぇよな」 「…俺はねぇ、ここのが居心地が良いんだ。 吉田もいるし寂しくない」 そう言って笑った彼に違和感。隠しきれて いない暗い感情。 鈴村のくせにそんな顔で笑うんじゃねぇ。 理由は知らないし、聞く気もないが。 -
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