純情labyrinth

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「…アレ、なんで扉開かないんだ?」 何度も引っ張るがガタガタと音を立てるだけで開く気配はない。嫌な予感に、背筋に冷や汗が伝った。ふむ、と隣にいた西原が冷静に現状を説明する。 「どうやら外から鍵を閉められてしまったようだね。ここは地下の第二体育館倉庫。内側に鍵は無く携帯は繋がらないようだから、人が来るのを待つしかない。しかしもう時刻は20時を回っているから、今日中に人が来る可能性はゼロに近い」 「…俺、外側に『人がいます』っていう紙貼っといたよな?」 「あぁ、それなら僕が入る時に転びかけて扉に手をついた拍子に破いてしまってね。ここにあるんだ」 悪びれずにヒラヒラと斜めに裂けた紙を俺に見せる。 「……」 「……」 俺は大きく息を吸って拳を握り、声の限り叫んだ。 「っこの、大バカ者ーー!!」 「今回ばかりはすまない楡(にれ)くん」 「今回ばかりは、じゃねぇよ!毎回毎日ハプニング起こしやがって!この馬鹿!アホ!」 校内で一位、模擬試験でも全国のトップクラスに位置する頭脳を持つ西原 秀美。実際は好奇心の塊で考えなしのおっちょこちょいの社会不適合者だ。人生を生きるのに必要な人並みの危険察知能力に見放された男とも言える。そしてそれに巻き込まれるのは、この俺、中の中を自でいく男、楡 正人。 -
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