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「……」
「さぁ、君も」と目で促す西原。俺は凄まじい天使と悪魔の葛藤を一瞬で済ました。なけなしの理性で天使の勝利。寝転んで、華奢な西原を寒くないよう優しく恐る恐る抱き締める。西原の匂いが鼻腔をくすぐる。あぁ、いかん。どうか、胸の鼓動が聞こえませんように!
「…楡くん」
声をかけられ、ドキリとする。彼は上を向き俺と目を合わせた。
「なに」
「僕はいつも君といる時、リラックスしているはずなんだ」
「それで?」
「…でも、今は何故だか緊張してる」
なんでだろうね、と少しはにかみながらそう言った。もう俺はいっぱいいっぱいでノックアウト寸前だ。…もしかして今、めっちゃいい雰囲気じゃないか?俺は拳を握り締め、勇気を振り絞った。
「なぁ…それって、恋なんじゃ、」
スースー。
「…え?」
西原はすでに夢の中。うわー天使の寝顔や…って緊張してるんじゃなかったんかい。俺は溜め息を吐いて、西原の眼鏡を外してやってから彼を温めることに専念した。
「ん…おはよう、楡」
「おはよ…」
「よく眠れたかい?」
「夢も見ずにね」
「さすが庶民だな。僕は夢を見ていたから浅い眠りだったよ」
「……」
流石に本当に殴ろうかと思った。
END
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