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1.先輩×後輩
『さくらふる庭』
カシャ、と近くで不意に音がした。なんだと思って顔を向ければカメラを構えた人が俺を見ている。
「…え、いま、写真撮りました?」
「うん」
返事と共にもう一回シャッター音。カメラをおろした彼は、人懐っこい笑顔を俺に向けて言ったのだ。
「君、写真部とか興味無い?」
***
ー中庭にある大きな桜の木の下。部室からその場所はよく見える。静かな部室に一人、俺は椅子に座って外を眺め、先輩と最初に出会った時のことを思い出した。
(結局俺は先輩の押しに負けて、写真部に入部することになったんだよなぁ)
もうすでに3年生だった先輩は1年の俺によく構ってくれた。最初は写真にはあんまり興味がなかったけれど、実際やってみたら結構楽しくて。先輩に教えてもらいながら、基礎から一つ一つ学んでいった。
…あっという間の1年間だった。
先輩は、今日でいなくなる。引退しても部室に当たり前のようにいた背中がもういない。寂しさを埋めるように椅子の上で膝を抱え込む。卒業式はどこまで進んでいるのだろう。気分が悪い、と嘘をつき式を抜け出してきたのだ。だって黙って静かに座ってられる自信がなかった。
だから俺は先輩との思い出に浸る。短い1年間の彼と共に過ごした1日1日を。
(あーあ)
せめてあと1年早く生まれてたら先輩ともあと1年長くいられたのに。どうしようもないことを両親に恨んだ。
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