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2.愉快犯的主人公
『昏い底で笑いたい』
「…宵(よい)」
「日宮。どうかした?」
呼ばれた少年が振り返った。黒縁のメガネが顔の大半を占めているような彼。黒い髪の毛も野暮ったく見える。
「…やっぱなんでもない」
「なんだよ。おかしなやつ」
宵は口元を緩めて笑った。そして自然な動作でメガネを取り払うと、胸ポケットにそれを仕舞う。前髪から覗いた目は、蠱惑な光を宿して遠くを見つめた。
「転校生、楽しみだと日宮も思うだろ?」
「転校生が不憫でならないよ」
「あぁ、早くこないかなぁ」
「…ほどほどにな」
まるで新しい玩具を手にする子どものように宵は軽やかな足取りで、鼻歌を歌い始める。日宮はそんな宵を見て諦めたように溜め息を吐いた。
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