I'm all thumbs.

4/4
前へ
/310ページ
次へ
ー僕がトイレから出ようとすると、ちょうど入れ違いに人が入ってきた。「う、わ」ぶつかりそうになって、その人に抱きとめられる。 「あぶね…ってなんだ花山か」 この声は。恐る恐る顔を上げる。僕は危うく失神しそうになった。 「は、春田」 彼のいい匂いが僕を包み、シャツの下に彼の体を感じる。意図せず役得な体勢に。うわ、うわ。なにこのラッキー。離したくない。無意識にギュ、と彼のシャツの裾を掴む。でもその状態はたぶん一瞬。彼の後ろから入ってきた生徒によって我に返り、何事もなかったように彼の体から身を離しトイレを後にする。 暫く廊下を歩いた後、耐えられなくなり壁に体を預けた。力が抜けてへたり込む。顔が熱い。ひんやりとした壁に頬をつけた。メガネが当たり、カシャと音を立てる。 春田が欲しい、と思う。諦めたくない。でも彼は廣瀬が好きなわけで。僕に勝ち目はあるのかと問われれば、そんなもの無いに等しいのだ。どうしよう。もとから、見ているだけで良いと思ってたのに。 「ハァ…」 けっきょく、行動を起こす勇気も自信も僕にはない。ポケットから携帯を取り出してLINEを開くと一番上に彼の名前。今度は誰もいなかったから存分に顔をにやけさせてしまった。 (廣瀬のことが好きなのは残念だけど、LINE交換出来て良かったな) つづく
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

691人が本棚に入れています
本棚に追加