おめでとうこざいました

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…そしてテーブルの上にはハルメン鳥の丸焼きに、マーニフィッシュとカトシュリンプがのったサラダやトマトがたっぷり入ったスープも。倹約家というかケチなターリヤには珍しい、贅沢な夕食が用意されていた。手は付けられぬまますっかり冷めてしまっている。…気のせいだろうか。全部が全部、俺の好物であることなんて。 「…ん、あ…師匠?お帰りなさい」 目を覚ましたらしいターリヤがおもむろに顔を上げた。 「ターリヤ。これは、何事だ。最後の晩餐か」 「違いますよ。今日は…」 その時、壁時計が0時を知らせた。ボーンボーンと部屋に響く。ターリヤが少し残念そうな顔をした。 「昨日は、師匠の誕生日だったじゃないですか。38回目の誕生日おめでとうこざいました」 「…あ!」 言われて、あぁそういえばと思った。俺は自分の誕生日など全くすっかり忘れていた。ターリヤは俺の手を取って祈るように包み込んだ。 「…ヤルマさん。生まれてきて下さって本当にありがとうこざいます。神に、大地に、感謝します」 そう言った後、らしくもないことをして照れたのかターリヤは、はにかむように笑った。 ーあの時引き下がったのも、祝うための夕飯を作ってくれていたからでこんなところで寝ていたのも俺を待っていたからで。健気な一面にグッと心臓を掴まれた。 「…ありがとう、ターリヤ。明日全部食うからさ。悪かった」 「それは、別に良いんですけど。どうせなら当日に、誕生日おめでとうこざいますってちゃんと言いたかった、です」 普段冷たいやつの、ここぞとばかりのデレほど効果的なものはない。末恐ろし、と思いながら、ターリヤを力一杯抱きしめてやった。 end
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