I'm all thumbs.3

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「ハナ、今日はどうしてこなかったのかなー?」 「…ひ、廣瀬!なんで」 春田と別れたあと、俺が向かったのはハナの家だった。何故かと問われれば、そりゃあ今日のドタキャンの件で話しがあったからである。そしてハナの母さんに挨拶をして、彼の部屋にノックもなく踏み込んで見れば案の定布団にくるまるハナを見つけた。 「元気そうでなにより」 「お、怒ってる…?」 「そりゃあ、約束を急に踏み倒されればとょっと腹立つさ」 俺がそう言うと、「ごめん」と眉を下げて謝る。ハナはとても優しい人だ。でもそれが逆に、人を傷つけることを知らない。 「俺、ハナと映画行くの楽しみにしてたのに。春田と二人きりにすんの、ひどい」 俺らの世界に、突然現れた春田という男。俺はハナの一番の理解者で、彼にとって唯一無二の存在であれば良いと思ってたのだ。ハナが最初に頼る男は自分だという事実で十分だった。それなのに。 ハナには可愛い奥さんをもらって、子供をつくって、家族に見守られて死ぬのが似合うのだ。そういう、ありふれた、だけど幸せな一生が。その中に未来もなにもない、男と付き合うという選択肢は存在しない。しちゃいけないのだ。 -
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