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「嗜み、なんだろうな。でも踊れたほうが格好つくし、覚えれば?」
「うーん。でもどうせ鈴村も踊れないだろうから、大人しく壁の花にでもなろうかと…」
「男だったら壁のシミだぞ、良いのか」
「…俺はシミになる」
という吉田の考えはそうそう裏切られることとなる。ハロウィンに似合う音楽が、プロの演奏者たちによって流れ始め、さぁ踊ろうという時だ。春樹が文田に引かれ、輪の中に綺麗に入っていくのを横目に吉田は鈴村に声をかけ、壁の方へ移動しようとする。しかし、鈴村の手は中へと吉田を引っ張った。
「俺踊れる!吉田は女役すれば良いから」
こんな図体で女役!しかもまさか鈴村が踊れるとは。引き気味の腰に鈴村が手を添え、「ほら」と囁く。
「俺の動きに合わせて、足を出して。ワン、ツーワン、ツー」
なんていうことだろう。鈴村が紳士に見えた。戸惑いの無い、様になった動き。どこで覚えたんだと聞きたくなったが、鈴村についていくのに必死だった。
「すげぇ、お前踊れんだ」
「まぁねん」
文田は男らしく春樹をリードしていて、吉田は今回心に誓った。絶対、踊れるようになってやると。
「狼がヤギにリードされてら」
「うるさい」
ニヤニヤと笑う文田に噛み付く。しかしまったく踊れないはずのに、躓くことなくそれなりに動けているということは鈴村が上手いということなのだろう。
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