睨む目のわけ

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彼がいる近くの本棚に仕舞いたい本があり、下條は行こうか迷ったが何かのきっかけになるかもしれない、と心を決めて何気ない風を装い近付いた。少ししたら彼も下條の存在に気付いたようだ。視界の隅で顔を上げたのを見る。 内心、ものすごくビビっていた。この図書館には下條と松永以外の人はいない。カツアゲや暴行などといった行為をされるのではないか。自分の縦ばかりに伸びた体を下條は呪う。早く終わらせるため、彼はできるだけ早く手を動かした。しかし松永はなにも言ってきもせず、チラリと目を向けると上げた顔はまた本に戻っている。拍子抜けし、ホッと息を吐いた。 (なんだ…なにもしてこないじゃないか) もう、睨まれていたのも気のせいだったのではないかと思い始める。 (俺ではなくて隣のやつを見ていたとか。俺は少し自意識過剰だったかもしれない。あぁ、なんだ安心した) 荷が下りたような清々しい気持ちで下條はその日を終えたのである。 * しかしその日から、彼を図書館で見かけることが多くなった。彼の睨む目つきと視線が合うのも変わらない。 気のせい…ではなかったのか。しかし本当に彼は何もそれ以上の行動には移さないのだ。 -
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