レンズの向こう側

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2年の秋、どこまでも俺らの上を覆う 鮮やかな夕焼け空を撮りたくて 俺が校舎の屋上に行ったのは、果たして 偶然だったのか。 "偶然はない、全ては必然。" どこかの漫画でそんなセリフがあった。 なんとなく納得してしまう。 だって、今回の出来事はあまりにもうまく 出来すぎていたものだから。 ーーーーーーー 「春はあけぼの、夏は夜。さて、秋は?」 蘭々と輝く鳶色の瞳。 無造作に整えられた黒い髪をもつ少年は "山下映"という。 「…夕暮れ、ですよね。」 突然思いついたように、映は喋りだし 近くにいた部員に問いかけた。 生徒は戸惑いながら正解を述べる。 「良く出来ました。 というわけで、今日は夕焼け空を皆で 撮ります。」 自分のカメラを持って部室を出ようとする 映に、後ろから声がかかった。 「おい、屋上の使用許可は?」 声の主は椅子に座っていた副部長の永田。 「もうとった!」 「…用意周到なことで。」 映の突拍子もない行動には慣れているのか 呆れた声をあけただけで大儀そうに 立ちたがる。 映の猫背気味の後姿を焦るでもなく 見送った。 「準備できたやつから行け。 レンズは屋外用のにしとけなー。」 部長の代わりに永田が指示を出す。 全員出たのを確認して部室の鍵を閉めた。 -
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