レンズの向こう側

3/5
前へ
/310ページ
次へ
屋上の扉は、あまり使われていないため 金属が錆びついていた。 開こうとすると、ギギィと音がした。 ドアノブを握った手が鉄臭い。 開いた扉からは風が舞い込み、淀んだ空気 を入れ換えた。 待ち焦がれた秋空に誘われるように映は 屋上に踏み入れる。 どこまでも続き、いつでもどこでも俺を 見ているこの不思議な、ソラというもの。 衝動でシャッターをきった。 何度も、なんども。 そのうちパラパラと部員が到着し始めた。 彼らは自分が思うように行動する。 この自由な雰囲気が映は好きだった。 空を撮るのに満足して、ほぅと息吐くと 映は、パッと現実に引き戻された。 上をずっと向いていたから、首が気怠い。 いろんな方向に傾け、凝った肩を回す。 こんどは空ではなく、学園に広がる森に 目を移した。 紅葉はまだ早く深緑が風に靡いている。 奥には使われていない旧校舎がたっていた。 映は、目を細める。 旧校舎の屋上に動くものがある。 黒い…けど、鳥じゃない。人だ。 なにが黒い?髪と服。黒い服は制服だ。 映はカメラを構えた。 拡大していきレンズ越しにその人を見る。 「…カラスだ。」 映は、目を輝かせ、ぽつりと呟いた。 -
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

691人が本棚に入れています
本棚に追加