レンズの向こう側

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ーそれからというもの、映は彼の姿を 撮影するのを日課とした。 彼はだいたい17時から18時の間に来て 30分経ったら帰っていく。 歌っている間はとても生き生きしている。 廊下ですれ違った時は片翼が折れた鴉 みたいだと映は感じた。 親衛隊を統制するのはやはり並大抵のこと ではないのだろう。プレッシャーに 押しつぶされないのだろうか。 「孤独かい?不安かい?」 映の独白は誰にも届かず風がかき消す。 「永田、零姫っているじゃん。」 「いるな。」 「綺麗だよね。」 「そりゃ親衛隊隊長になるくらいだしな。 クールビューティってやつだ。 …なんだ、零姫に御執心か? 悪いことは言わない、やめとけ。」 興味なさげに永田はコーヒーを啜った。 「そういわけじゃないんだけどさ。」 映は窓の外に視線を移す。 いつか彼の歌を聞きに行こうと心に決めた。 「そういや、転校生がくるらしい。」 「へぇ。」 それこそ俺には興味のない話題だと 映は思い、自分のカメラを弄りだす。 「一波乱あるだろうな。」 遠い目をした永田の呟きは、映の耳には もう届いていなかった。 contine
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