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僕には恋人がいる。
何の取り柄もない平凡だけど、そんな僕を
愛してくれる人がいる。その人はとても
カッコよくて頭が良くて、人の先頭に
立って引っ張っていけるような完璧な人。
「なんで、僕のことを好きに
なったんだい?」
「理由がいる?」
質問を質問で返されてしまうし
それになにより完璧な回答で困る。
具体的なことを言われたら、きっと僕は
意識して普通じゃいられなくなるし
昔の出来事をもってこられようものなら
美化された思い出の恥ずかしさで
死んでしまうかもしれなかった。
「…カッコいいねぇ。」
僕は咄嗟にそんな事は言えない。
返事に3日かけていい、と言われても僕は
彼の好きなところを思いつく限り言うし
出会った時の出来事を話すだろうから。
僕があまりにも感心して言うので
彼は、よせやいと笑った。
大衆の前では決して動かない頬の筋肉は
今では思う存分緩められている。
固まってなくて良かったと僕は毎回ホッと
する。彼のこの表情が独り占めできるのは
とても嬉しいことだったから。
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