僕のメシア

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ひょい、と彼の横に置いてあるメガネに手 を伸ばした。かけてみても視界に変化はない。 このメガネには度は入っていなのだ。 しかし彼はコンタクトをしている。 気付いた時にどうして?と尋ねると メガネの方が優等生っぽい、という馬鹿 みたいな答えが返ってきた。 あながち間違いじゃないとは思うけれど それは少し不真面目ではないのだろうか。 「そういえば俺の友人は、メガネを外す 瞬間が好きらしい。あの無防備さが 良いんだと。」 首を傾げる彼を横目に、その友人とやらの 言葉にも一理あると思った。メガネを外す ことはネクタイを緩めるようにリラックス した状態であり、それは隣にいる人を信用 しているからする行為なのである。 だからグッとくるのだ。 メガネを外してネクタイを緩める彼の姿に はいつもキュンキュンしてしまうのだ。 僕は彼にぞっこんなのである。 癖のある短い黒髪もいつも不機嫌そうに みられる眉間の皺も凛とした背中も 暖かい大きな手も、全部好きだ。 「…ずるい。」 こんなに僕ばっかりが好きなのだ。 そんなの不公平だ。 膨れた僕に彼は飴ならあるぞ、と イチゴミルク味のアメを取りだした。 …甘いのがないから不機嫌なんじゃ ないんだってば。 時々驚くほど鈍感な彼のことも当然僕は 好きなのである。 ーある日。 そんな平和だった日常に急に暗雲が 立ち込めたのだ。 -
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