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『昨年は色々あったにゃあ‥‥‥‥』
そう言って煙草の煙をくゆらすリョータの横顔が若干曇った。
茶髪でウェーブがかった長い前髪からのぞくリョータの瞳が少し潤んでいるように見えた。
俺はそれにあえて気づかないフリをした。
色々という言葉の意味するところが何なのか、知っている。
俺は高知の高校を卒業後、親の転勤もあり東京の大学に進学した。
リョータは高知の美容専門学校に入った。
――そして。
‥‥‥‥ナルミは、高知の食品会社に就職した。
『リョータ‥‥‥‥俺よ‥‥』
『ん?』
『俺にゃあ‥‥‥‥ほんまにあの時よう帰ってこれんかったがよ』
その言葉は俺の本心からのものだった。
リョータは横目で俺を見た後、背を向けながら再び煙草を口にした。
俺達の何となく場違いな雰囲気とは裏腹に、周りは相変わらず華やいでいるといった感じだった。
『そうか‥‥‥‥まぁ、そうやろうにゃあ‥‥‥‥。でもよ?‥‥‥‥それでも。お前はやっぱり帰ってこないかんかったと俺は思うで』
『‥‥‥‥そうやにゃあ』
『あのよ‥‥‥‥ナルミが最期に一番会いたかったんは、しゃくなけんどやっぱりお前やったがやろうき』
リョータは煙草の煙を天に向かってはいた。
込み上げてくる涙を抑えようとでもしてるのだろうか、リョータはそのまま暫く俺に背を向けて天を仰いでいた。
『お前も‥‥‥‥あいつのことが好きやったもんにゃあ‥‥‥‥』
俺の言葉は、木枯らしに抱かれて寂しく宙を舞った。
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