10人が本棚に入れています
本棚に追加
ナルミは自分が倒れたことは一切俺には告げてこなかった。
俺には知らせたくなかったのだろうか。
一体、何故だ?
それに、ラインでのやり取り。
成人式の約束なんか‥‥‥‥。
自分の余命があとどのくらいあるのか知らされてなかったのだろうか。
俺にはナルミの真意が分からず、余計に高知へ行くことに躊躇ってしまった。
大学の外せない講義もあったし、二、三日考えることにした。
それから、僅か三日後だった。
バイトの帰り道。
再び、リョータから連絡が入った。
電話に出るなり、俺はリョータに怒鳴られた。
嗚咽混じりの、怒声だった。
《馬鹿野郎!どうして、すぐ帰ってこなかったんだよっ》
電話口のリョータのただならぬ様子に俺は凍りつき、バイト先で貰ったオレンジの入った袋を落とした。
それは、ナルミがついさっきこの世を去ったことを告げる電話で。
リョータがその後も俺に対して何か喋っていたけれど、俺はショックでただその場に立ち尽くしていた。
何で?
余命一ヶ月って言っていた。
それなのに、どうしてたったの一週間で死んだ?
こんなに、呆気なく終わるものなのか?
何も耳に入らなくて。
何も視界に入らなくて。
その後、どうやって家まで帰ったか覚えてなかった。
それ程までに俺はただもう抜け殻だった。
次の日、大学を休んだことに心配した彼女が俺の様子を見に家を訪ねてくれた。
でも、俺は会わなかった。
会えなかった。
ナルミがこの世からいなくなって、心にぽっかり大きな穴が空いたままで彼女と付き合い続けることは出来なかった。
俺は自分のことを、心底馬鹿だと思った。
最初のコメントを投稿しよう!