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「ふんふーん♪」
とある近郊街の一角、沢山人が居てもおかしくないはずの、閑散とした駅前の噴水の前で、
一人で楽しくスケッチブックに絵を描く十代後半の少女が居た。
ふわふわのポニーテールにタレ目、
絵の具でぶちまけたような水色のワンピースを着ている。
周りの雰囲気に似合わず、少女はお構いなく絵を描く事をやめない。
完全に自分の世界に入っていた。
「おい」
ふと、少女はペンを止める。
男の声が、目の前からしたのだ。
そちらに目を向けると、如何にも柄の悪そうな(それはそれは世紀末みたいな)男二人組が立っていた。
「危ないねぇ。こんな無法地帯に女の子一人で居るなんて、攫われても知らないよ?」
「俺たちと一緒に、安全なとこに行こうぜ?」
二人の風貌からして、安全ではないと解る。
このまま少女を誘拐しようとでも考えているのは、もう目に見えていた。
だからこそ、少女はこう言った。
「やーだよー♪」
べっ、と舌を出して、悪戯っ子のように言った。
こんな舐められたことをさせられて、男は黙っているわけがない。
「……このアマぁ、調子に乗るなよ!」
どうやら沸点が低いようで、男は拳を少女に向けて振るう。
しかし、その拳は、一生届く事は無かった。
何故なら、拳が届く前に、男が横に吹っ飛んだからだ。
いや、蹴り飛ばされた、と言えば良いだろう。
「おやおや、グットタイミングだね。『ふぁぶれ』くん」
少女は、自分の前にいつの間にか立っていた青年・ふぁぶれを見て、嬉しそうに言った。
「……一人で勝手にウロウロするなよ」
「えぇーっ、いいじゃん。それにこいつら、わたしのスキルだけでも事足りるよ?」
「スキルを除いたお前個人の戦闘力は皆無だろ」
「いたいけな女の子だもーん」
ふーん。とアヒル口で言い返す。
「お前ら!俺を無視してんじゃねぇ!」
もう一人の男が、痺れを切らすように叫んだ。
懐からナイフを取り出し、切っ先を二人に向ける。
「しょうがねぇ……脅してでも連れ出してやる……」
「やっぱり誘拐か。ったく、もう少し良い職に就けよ」
「うるせぇ!」
有無をいわさず、男はナイフを振るう。
しかし、そんなもの、ふぁぶれにとってはぬるいものだった。
ぱん!と足を蹴り上げて、ナイフを振り払うと、
そしてすぐに、男の顎に目掛けて蹴った。
軽く吹っ飛び、地面に叩きつけられた。
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