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「そういえば、あの時なんて書いたの?」
駅前から離れて、路地裏を歩くふぁぶれと飽人。
その途中、飽人はふぁぶれに尋ねた。
「?あの時って?」
「ほら、さっき悪いおじさんを本にして、わたしのペン使って書いたじゃん。なに書いたの?」
「あぁ、それね。
『ふぁぶれと飽人の存在を忘れ、これから人身売買をきっぱりやめ、真面目に生きる』と書いた。正直あいつを野放しにするのは癪だけど、たまには良いかと思ってな」
素直じゃないなぁ。と飽人は微笑んで言う。
「改心させるのも悪くないと思うけどなぁ」
「犯罪者はどこまで行っても犯罪者。改心なんて、むい」
「どりゃーっ!」
言いかけたところで、突然ふぁぶれの顔に何かがぶつけられた。
缶や石ではなく、何やらめちゃくちゃ柔らかいものをぶつけられた。
よく見ると、ふぁぶれの顔を覆っていたのは、白い餅のような何かだった。
「……この」
顔を覆っている餅のようなものを引き剥がし、
恨めしそうにそれを見る。
「なにするんだ?モチ野郎」
「うっせー!姐さんの言葉を否定するなんて男の風上にもおけねーぜ!」
餅のようなものは、ぬいぐるみのような可愛い声を上げた。
この餅のようなものの正体は、『千堂シナノ』という元人間であり、
どういう経緯か、悪い魔法使いによって、喋る餅のような生き物になってしまっている。
飽人とは長い付き合いで、何かとふぁぶれとは張り合う仲である。
「お、落ち着いてよ千ちゃん。ふぁぶれくんはそういう人だから」
「いーや姐さん!こいつにゃぁ一回灸を据えなきゃ気が収まらん !こいつに姐さんの慈悲深さをわからせて」
「そぉい!」
言い切る前に、千堂を壁に叩きつけるふぁぶれ。
ぱーん!と軽い音をさせて、びよーん。と壁に伸びる千堂。
まるでスライムを叩きつけたような気分だと、ふぁぶれは思った。
「うぅ……言い切る前にオイラを壁に叩きつけるなんて……相も変わらず雑な扱いをしてくれる……」
「是非とも、そのふにゃふにゃな姿で、俺に灸を据えて貰いものだな。 お前なんてクリボーより容易いぞ」
「オイラをそこまで見くびってるの!?」
いくら餅のような生き物である千堂シナノにとっては、とてもショックであった。
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