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市の言う兄様とは織田信長である。
信長は去年の6月、明智光秀の謀反にあい炎の中に消えた…。
宿泊していた本能寺に火をかけられ、抵抗虚しく散った。
「信長様は…」
勝家は言葉に詰まった、何を言えば良いのかわからない。
クサい台詞を無限に思い付く猿のことを、少しだけ羨ましく思った。
だから、ここぞとばかり脳内で猿の首を叩き切った。
「勝家、そろそろ…」
この言葉は意味することは一つだ。
市は自分の腹に小刀を近付ける。
勝家の持つ刀がカタカタと音をたてるくらい、勝家の手は震えていた。
今まで、こんなに逃げ出したいと思ったことはなかった。
しかし、介錯が無ければ市が長く苦しんでしまう。
震える手に力を入れた。
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