プロローグー天正11年(1583年)ー

4/6
前へ
/9ページ
次へ
市の言う兄様とは織田信長である。 信長は去年の6月、明智光秀の謀反にあい炎の中に消えた…。 宿泊していた本能寺に火をかけられ、抵抗虚しく散った。 「信長様は…」 勝家は言葉に詰まった、何を言えば良いのかわからない。 クサい台詞を無限に思い付く猿のことを、少しだけ羨ましく思った。 だから、ここぞとばかり脳内で猿の首を叩き切った。 「勝家、そろそろ…」 この言葉は意味することは一つだ。 市は自分の腹に小刀を近付ける。 勝家の持つ刀がカタカタと音をたてるくらい、勝家の手は震えていた。 今まで、こんなに逃げ出したいと思ったことはなかった。 しかし、介錯が無ければ市が長く苦しんでしまう。 震える手に力を入れた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加