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パンッ。と乾燥機にかけたゼッケンのしわを伸ばす。
水で濡れた手が冷たい北風に吹かれて、もっと冷たくなる。
「さっむ…」
袖が濡れるから。と思ってまくっているから、尚更寒い。
見えてる腕にはぶつぶつと鳥肌が立っている。
「早く終わらそ」
一人で呟いて、黙々と湿っているゼッケンを干して行く。
「永澤ー」
全部干し終えた時に、足音と共に名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、そこには成陵高校サッカー部部長の荒木 浩平の姿が。
「何?もう練習始まるよ?」
今の時刻は四時五分。
十分から部活開始だ。
「だから、頼むんだよ」
「…………」
正直、嫌な予感しかしない。
「部室にジャージの上着忘れちゃってさ。お願い。取ってきて?」
顔の目の前に両手を合わせて頼み込んでくる荒木。
「……。部活やって暑くなるんだから、上着なんていらなくない?」
「いるんだって。この冬に汗引いたら風邪引くって。な?上着必要」
「…。分かったよ。取ってくる。だからさっさとグラウンドに行ってよね」
ゼッケンが入っていた空のかごを持って、部室に向かう。
後ろで荒木が嬉しそうにしていたのを、あたしは知らない。
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