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すでに日は落ち、上天は漆黒に覆われようとしていた。
旅路を急ぐ1人の若者は、まだ9月だというのに寒風吹き付ける、この北国に驚きつつ、宿があるであろう関門へ近付いた。
「そこの者、待たれい!」
声を掛けたのは、武具を身に付けた、おそらく関門の兵であろう。
急ぎ足の若者は足を止め、声のする方を見やった。
「わたくしでございますか?」
関門の兵まで、少し距離があったが廻りに人影は無い。
「その通りだ、役務ゆえ問うが…」
ゆっくりとこちらへ向かってくる関門の兵は、関門の長たる証、兜に大白鳥の羽根が見える。
「旅証はあるか?」
明らかに、警戒しているのが見て取れる。
こちらへ向かう歩みは、いつでも抜剣し、斬撃を放てるようである。
それは、若者がただの旅装ではあったが、素人目にも見事な槍を携えており、体躯もまた精錬されていたからに他ならない。
「はい。こちらに。」
槍を地に置き、ひざまずいた状態で、スッと懐より旅証を差し出した。
受け取った関門の長は、旅証に目をやると、若者に一度視線をやり、驚いた表情でもう一度旅証に目をやった。
「アレント公爵…で、いらっしゃいますか?」
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