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「こよみ、こよみ!」
――……?
「目を覚ましてくれ!
こよみ……」
聞き覚えのない悲しそうな声に、ズキッと私の頭が悲鳴を上げる。脳裏に漠然と、何か分からない物が浮かび上がっては、消える。
「だ、誰?」
「目を覚ましたのか!?」
ギュッ――。
背中だけに感じていた温もりが体全体に伝わってきて、抱きしめられているんだ、と気付く。少しばかり、私の顔に掛かる髪の毛がくすぐったい。
「死んだかと思った…」
ほのかに香る森林の匂い。ぼやけていた視界が、だんだん鮮明になる。
「こよみ?」
「あっ…」
私を見つめたままの黒い瞳がより一層見開くと、私の顔が一瞬で熱をおびた。
「こよみ!
やはりまだ熱があるんじゃ!?」
細長い手先がピトッと、私の額に優しく触れて、愛おしそうな表情を浮かべる。
誰かと間違っているんでは、と、戸惑うほど。この状況に耐えきれなくなった私は、慌てて彼から体を突き離した。
「此処はどこなの!?」
「こよみ…
どうしたんだ?
もしかして
私の事を忘れたのか……?」
切ない顔をされて、胸がズキッと痛む。何も思い出せないし、自分が一体誰かさえ分からない。
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