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紫濃は残念そうに言っていたが、Y氏にとってはそれどころではなかった。
「ははは・・・。それは、残念ですが、弊社の保険はちょっと特別でして。どうやら、ここには似合わないようですね」
Y氏は苦笑いを浮かべながら後ずさりをしてた。こんな家、一秒もいたくないからだ。
「そ、その・・・失礼しました!」
Y氏は逃げるようにして首つり流派総本山の屋敷から出ていった。その様といったら、まるで蜘蛛の糸に足でも絡め取られた虫のように無様で情けなかった。
遠くの方で、紫濃の笑っている声が不気味に聞こえた。嫌な汗が出てくる。
屋敷を出て、近くの商店街を通り抜けたY氏は公園の水飲み場で頭から水を被って、やっとのこと落ち着きを取り戻した。
異様な場所から現実に戻れた安心感。果たして、あれは現実だったのか。夢か幻ではなかったのだろうか。それとも、Y氏のような営業マンを追い払う為の悪い冗談ではないのだろうか。どちらにしろ。
「全く、何が首つり流派だ。俺達の保険会社にしてみれば、大問題の流派じゃないか!」
Y氏は憤慨した。そんなY氏の鞄からは、彼がいつも契約の際に用いている保険会社のパンフレットが見えていた。
----生活で苦しむ皆様。是非とも自殺を。弊社では首つり自殺をなされた方を対象に、『首つり保険』というのをやらせていただいております。
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