親殺しの有燐

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静かな静寂が辺りを支配している。 明けの明星が不吉な色を湛えて不気味に輝いて見せた。 ーーーーーーーー不吉、ねぇ。 俺はぼんやりとそう考える。 何よりも、誰よりも、その存在を不吉とされるのはこの俺だと云うのに、その俺が不吉などと、全く、そんなことを考えてしまうのは可笑しな話だ。 トントン 微かに戸を叩く音がした。 「たれか。」 俺は刀を小脇に引き寄せて問うた。 「僕だ。入れろ、有燐。」 聞き覚えのある声に、俺は刀は持ったまま戸に近付き閂を開けた。 「早いな、お前は相変わらず。」 「どの口が云う。………それに、自然と目が覚めるだけだ。いつ何時、たれかに屠られてもおかしくはないからな。」 男を中へ引き入れつつ、俺はそう云った。 「……………調子はどうだ。」 男は微妙な表情をしてそう問う。 「悪くない。今日はたれを斬るのか。」 俺がそう問えば、男が懐から半紙を取り出す。俺はそれを受け取り、一瞥した。 「………ふん。雑魚か。」 俺こと、日向有燐の仕事は人斬りである。
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