10人が本棚に入れています
本棚に追加
「つばき!」
萌黄色をした着物を身に纏った少年が、ふわりと桜の木にとまった。
桜の花は満開で、美しい花びらをひらひらと地に降り注いでいる。
少年の声を聞くと桜はひとたび優しく花を揺らし、薄桃色の着物に身を包んだ美しい少女が姿を見せた。
「こんにちは、めじろ。それから"もう"わたしは"さくら"よ。」
そう言ってふわりと微笑むと、めじろと呼ばれた少年の隣に腰を下ろす。
「僕にとってつばきはつばきだ。どんな姿になったって、変わらない。」
少しむくれた様子でめじろは返す。
その様子につばき、と呼ばれた少女はくすくすと笑った。
「ね、めじろ、今日も聞かせて。」
「うん。」
いつものようにめじろは語り出す。
さえずるように美しい声で、今まで自分が見てきた世界を。
それはまだ、とても狭い世界だけれど、ここから動くことのできないつばきの為に精一杯自分の世界を伝えてゆく。
そしてそれを静かに、けれどとても楽しそうにつばきは聞き入るのだった。
最初のコメントを投稿しよう!