朝日と夜と不安定な世界

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「おはよう!」 僕は高らかに手を挙げて、教室に足を踏み入れた。 「朝から元気だな…」 僕の級友は、横目でこちらを見ると人を小馬鹿にしたように呟いた。 その表情を見て、今日は機嫌が良い方だな、とぼんやりと考えた。 前の席の女子は、今日も早くから学校に来ていたらしく、二週間後の試験に向けて勉強している。 「いやぁ、勉強してないわーこれはもうダメかもわかりませんね」 少しオーバーに声を掛けてみると、どんまい、と言って苦笑いをした。 苦笑いさえもいい表情だ。見習いたいね。 そのとき、君が向こうから歩いてくるのが目に入った。今日は一人のようだ。 わずかに心拍数があがる。 「おはよー」 君は手をひらひらさせて、僕に挨拶をした。 「おはよう! 聞いて聞いて! ついに運転免許取ったんだよ!」 僕は大袈裟にガッツポーズをする。 君は一瞬きょとんとした顔をした。 どうか、君の、僕じゃない、言葉を。 「あー、おめでとうございますー」 やる気のない声を上げて、目尻をくしゃっと和らげて。 君は笑った。
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