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長く飛び出た牙はあらゆるものを貫く。
人間に致命傷を負わすことなど造作もないだろう。
ゆえに俺は周囲を警戒する。
だが、猪に遭遇した場合の対処法は把握していない。
ならば今、調べようではないか。
そう思って携帯電話で検索しようと思ったが圏外だった。
現実とはかくも厳しきものである。
さて、周囲に肉食系男子がいるのはわかるのだが気配がない。
奴らが奇声を轟かせた場合に限ってどこにいるかを把握できるのだが、随分と静かなものである。
「猛獣が出没するというのに奴らときたら」
半ば呆れながら連中を探す。
鬱蒼と生い茂る緑のなかでざわざわと動くのは人か獣か。
あるいは風の悪戯なのかもしれない。
肉食系男子を探す作業を続けても埒があかないと気づくのは、この場で立ち止まって十分ほど経過した頃だ。
腕時計をしていてよかった。兄が誕生日にくれた防水性に富む優れものは、こういった場所で大変便利である。
「おい獅子峰! ここは猪が出るから気をつけろ!」
埒があかないと気づくと同時に声で意思を伝達すればいいことに気付いた。
このような単純な考えにもいたれないほど精神が追い詰められているのかもしれん。
「おう、ありがとよ!」
獅子峰の声が聞こえた。
部活でミスを指摘された部員みたいなノリで軽快な返事をされても困る。
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