満月の夜

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それから約1ヶ月後、真由美から復活したとの嬉しいメールを貰った。 彼から普通に電話がきて、何も無かったかのように元に戻ったらしい。 別れた理由は結局なんだったのかと訊くと、あいつから何も言わないから訊いてないって返事がきた。 理由はよく分からないけど、まあ、そんなものはどうでもいい。本当に良かった。願いが叶って良かった。嬉しくて、瞼に涙が溜まる。 更に驚いたことに、暫くして真由美からプロポーズされたとの連絡が入った。 そしてその数ヵ月後に私も突然暖からプロポーズされ、まるで後を追うように結婚したのだ。 ふと、眠りから目覚める。外は既に明るい。 天井を見つめながら、さっきまで見ていた夢を鮮明に思い返す。 舞台は英会話学校なのに、何故かあの人が同僚として働いていた。 「ジェニファーに明日は遅れないように言って。」 「でも彼女何度言っても遅刻するから、ただ言っても駄目かも。」 「じゃ、どうすればいいかよく考えて言ってみて?」 そんな会話を交わしただけの、たったそれだけの短い夢。 私は何故かあの人の夢を見ることは殆どない。年に数回がいい所だ。 それはあれ程四六時中考えていた頃から変わっていない。 その上、折角夢で逢えても、いつもこんな具合でちっともロマンチックではない。 せめて夢の中でぐらい、甘い恋人同士がいい。腕を組んだり、手を繋ぐぐらいしてもいいじゃないかと思う。 でも私の脳が作り出す夢でさえも、思い通りには行かないのが現実だ。 平安時代の頃、相手が自分のことを想うと、夢に出てくると信じられていたそうだ。もしもそうだったなら、あの頃私は毎晩のようにあの人の夢にお邪魔してたに違いない。 源氏物語に出てくる六条御息所のように、生霊になって好きな人の想い人を呪い殺したくはない。だけど、もしも生霊となって何処かを彷徨えるなら、あの人に会いに行きたい。夢の中でも何でもいい。会いに来てくれないなら、私が会いに行きたい。 さっき見た夢をもう一度再生する。 あれっ、あの人の声ってあんな声だったっけ? なんだかはっきり思い出せないことに気づく。 暖ほど低くないけど、特に高い声だったわけではない事は分かる。でも・・・。 十年という月日は時に残酷な事をする。 あの人の声が思い出せないなんて・・・。もう思い出せなくなるなんて・・・。
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