満月の夜

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視線を天井から真横に移す。 まだすやすやと静かに寝ている暖。 もう一般的に言うと、おじさんとか中年と言われる年齢だ。確かに肌にはもう以前の張りはない。でもその表情はまだ少年のようだ。 するするしている頬を数回撫でると、目を閉じたまま笑みを浮かべる。笑ってこんもりと盛り上がった頬は更に可愛くて、またそこを撫でる。すると彼の両手が包み込むように私の背中に伸びてきて、私を抱き寄せる。 暖かい。 このまままた眠りに落ちそうなぐらい居心地がいいなと思っていると、暖の手がゆっくりと私の胸へ伸びてきた。 ほぼ同時に、 「それ樹里のでしょ!返してよ!」 と樹里の甲高いヒステリックな声が耳に届く。 私は慌てて身体を起こす。 暖は目を開けて残念そうな顔を私に向ける。私は、 「おはよう。」 と暖に言ってキスをしてから、子供達のいる部屋へ向う。 典型的な日曜日の朝だ。 目覚まし時計なんていらない。早く目覚めた二人の喧嘩がいつもちゃんと私を起こしてくれるから。 たまにはもっとまったりと過ごしたいのになぁ・・・。 でも子供が居るとそうもいかない。それに今日は久し振りにつぐみに会うから、丁度いいのかも。 ここ数年年賀状のやり取りのみのだったつぐみと会うのが待ち遠しい。 彼女は結婚して子供が生まれてからも前の会社で変わらず頑張って働いている。 「みどりちゃん、元気だった?ほんと久し振りだね。」 「うん、つぐみも元気だった?会社はどう?」 「忙しいよぉ。やることはいっぱいあるのに、お迎えがあるから残業ができないのが辛い。」 「子持ちなのにフルタイムで働いてるなんてほんとすごいよ。よく頑張ってるよ・・・。ところでみんな元気?同期ってまだ結構残ってる?」 「うん、意外にいるかも・・・。」 残っている同期メンバーの名前を次々に挙げ、知っている範囲で近況を教えてくれるつぐみ。何人かは顔が思い出せないし、そんな人がいたっけと名前さえもうろ覚えの人もいる。 全く私の記憶力の悪さは酷いもんだ。 「そう言えば山田課長は今も課長のままだよ。」 「それはそうだろうね・・・全く驚かないよ。」
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