満月の夜

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「あんなみどりは見たくなかった。」 先週久し振りに電話で親友の真奈美と話した。 話の流れで、今でもあの人の事をまだ考えると言う私に、彼女は一言そう言ったのだ。 「あんなみどり」とは、間違いなくあの夜の私の事だろう。 彼女にとって、あの人との恋愛で一番印象深いのはあの夜なのだろう。無理も無い。でも全て無かったことにしたい私には、納得がいっても重い言葉だ。 きっと潤平も覚えている。そしてあの人も・・・。私ほど頻繁には思い出さなくても、みんな忘れてはいないだろう。 酔った時に人間の本質が現れると聞いた事がある。 じゃあ、あれが、私の本質なの? 疑心暗鬼になってあんな事を正当化してしまった過去の自分が・・・。 そう思うだけで、ぞっとする。最低だ。 もうそんなのは嫌だ。 私は犬になって、ありったけの想いをただ純粋に伝えられたらそれでいい。傷つけてしまうかもしれない言葉なんて要らない。尻尾が雄弁に私の気持ちを物語ってくれる。そしてあの人はその想いに応えて、きっととびきり穏やかで暖かいあの微笑みを浮かべながら、頭を優しく撫でる。 それだけでいい。それがいい。そんな存在でありたい。 疑念も要らない。見返りを求めない、無償の愛を捧げる存在になりたい。 赤みを帯びた月は、相変わらず何も言わない。 ただひたすら、闇夜を不気味に照らし続ける。 本当に何か不思議な事が起きそうだけだ。 でもどんなにそう思えても、きっと願いは叶わないんだ。 だって神様なんてきっと存在しないし、月が何かしてくれるとも思えない。 今この瞬間、あの人がこの満月を見てるかも・・・なんて偶然さえもほぼないだろう。 今が幸せなんだから、いいじゃないかと思ったこともある。 彼とまた付き合えてもきっと何か問題が起きて幸せになれないから、神様が私達を引き離したとかって考え方もあるかもしれない。 でもどうしても、本心からそうは思えない。 あれ程好きな人と一緒に過ごせるなら、困難なんてどうかなったもしれない。 今幸せだからと、結果論で神様の選択だなんて都合よくは思えない。 あんなに、喉から手が出る程追い求め続けたあの人と結ばれなかったんだもの、きっと神様なんていない。いないと思う方がずっとまし。 結果論なら、縁がないとか運命の人じゃないとかの方が、余程納得がいく・・・。
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