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私と芹沢係長の打つキーボードの音だけがカタカタと響く。フロアーにはもうあまり人の気配がしなかった。
「この間のドライブの話、シャコジでしょ?」
小さめの声で係長が私に話しかける。
そう言われちゃ、身も蓋もない・・・。
「いやそんなっ。日程を指定してもらえるなら、多分合わせられると思いますけど。」
心にも無いことを、すらすらと答えた自分に内心驚く。
嘘も方便ってやつ?だって、そうです、とは言えないし。
「じゃ、今度の三連休の最初の日は?」
「大丈夫だと思います。」
「じゃ、その日に。午後一時にXX駅でいい?」
そう言うと私の席まで来て、ささっと自宅と携帯の番号を書いたメモを渡した。
「当日駄目になったりとかしたら、連絡頂戴。じゃ、メシに行くね。お先~。」
一人席に残された私はしばらくして事態を飲み込み、「マジで・・・」と気が重くなった。
私には一応、潤平という彼氏がいた。
そう、一応、である。
潤平は大学時代のサークル仲間の一人。私にとって初めから彼は男性陣の中では一番気があって、ランチや飲み会では一番話したい男の子だった。
でもそうは言っても、私には1、2年の時は彼氏がいたし、それに基本的に女の子とつるんでいることが多かった。だから、あくまでも男友達として。
去年のクリスマス。
いつもつるんでるサークル仲間女4人男4人の全員で、新宿で飲んでいた。
大抵女性のみで会うんだけど、月一回ぐらい男性4人にも声をかける。彼氏や彼女がいる子も居たけど、何故か恋人達の為にあるクリスマスの日に、皆んな都合がついたのである。むしろその日以外は忘年会とかで無理な人がいたりして・・・。
みんなでわいわい騒いでいたにも関わらず、ふっと潤平と二人っきりになった時があった。
確か帰り際に他の皆んなが連ションに行ったような・・・。
「ずっと好きだったんだけど、付き合ってくれない?」
って、直球で告白された。
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