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「じゃ、とりあえず、乾杯。」
ジョッキを軽く持ち上げながら、潤平が言った。
「うん、乾杯」
内心、乾杯とか言ってる場合じゃないと思ったが、釣られて私もグラスを軽く持ち上げて、一口飲んだ。
「で、どうしたの?」
何か食べ物を頼まないといけないと思ったのか、メニューを取りながら、訊く。
「家に犬がいたんだけど、その犬を撫でてる時の顔がすごく優しそうで・・・。会社で見たことのない素敵な表情で・・・。それで・・・、好きになったの。」
なんとなくまだ潤平の顔を直視できない。見つめていたグラスの外側の水滴を、まだ大して付いてもいないのに、おしぼりでふく。
「そっかぁ。」
乾杯の為に灰皿へ置いたたばこをとって、また深く吸い込む。
そして思い出したようにメニューをみる潤平。
「ところで何食べる?何か頼まないとね・・・。」
「うん。」
私もとりあえずメニューを見る。
「揚げ出し、いっとく?あと・・・サラダかな?海藻?じゃこのせ?」
私のよく頼む揚げ出し豆腐を早速見つけて、指を指す。
お腹はいつも通り減っている。でもこんな話をしている時に、さすがにがつがつとオーダーする気にはなれない。
でも潤平はいつもたくさん食べる私を知っているから、じゃんじゃん選んでいる。
運ばれてきた料理は私達二人で食べるにしては多すぎるくらいだった。それに一気に頼みすぎで、取り皿を置く場所もないぐらいだ。
「ふふっ、すごい量だね。」
「うん。でもみどりちゃんなら食べられるっしょ。」
「人をバキュームカーみたいに言わないでよ。」
そこからは仕事の話とか昔サークルでいった旅行の話とかをして、いつもの飲み会みたいに、楽しい夜だった。
帰り際、改札を通り抜けて違うホームへ向わなければならない、バイバイをする直前、潤平は私の顔を真っ直ぐ見て言った。
「これからはまたサークル仲間として会おうぜ!」
「うん。」
「じゃ、気をつけて帰れよ。」
「潤平もねっ。」
本当にさわやかな別れだった。
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