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私は携帯電話を片手に、自室で悶々としていた。
確かにあの時、
「でも彼女はいるんだけど、あなたの事がもっと気になるんだよね。」
って言ってた。
あれは彼女より私の方が好きって意味だよね。。。
言われた時は前半部分の方が大事で後半部分はあまり意識してなかったけど、芹沢係長を好きって自覚した今、後半部分の方がより大事に思われて、その台詞を頭の中で反芻する。
できれば、当たって砕けたくはない。
大人になるとやはり自衛本能が働き、一歩踏み出すのに勇気がより必要になる。
でも、あの優しい笑みで私を見てほしい。楽しいあの一時をもっと味わいたい。
そして私はメモを片手に彼の携帯番号を押した。
それなりの覚悟をして臨んだにも拘わらず、呼び出し音が数回鳴った後、留守番電話につながった。
メッセージは残さず、通話をすぐ切る。
既に時計は11時を指している。自宅にかけるにしては遅い時間だと思った。でも、指はそんな私の思いとは裏腹に自宅の電話番号を押し始めていた。
もう話したくて、話したくて、しょうがなかった。
「はい、芹沢です。」
男性の声だ。
弟がいると言っていたし、お父さんかもしれない。
受話器越しに声を聞いたことがないので、よくわからない。
「夜分すみません。敦(あつし)さんはいらっしゃいますか?」
「はい、僕ですけど?」
明らかに私が誰だかわかっていない様子。
「あっ、係長ですか?小関です。すみません遅くに・・・。」
「あれっ、どうしたの?」
迷惑そうに訊いてる感じは全くなかったが、急に数分前の勢いはなくなって、電話をかけたことを若干後悔していた。
「なんとなく、昨日はあの後どうしてたかなぁって思って・・・。」
始発が出る頃まで彼の家で話して、その後最寄り駅まで送ってもらったので、家に帰ってすぐ寝ただろうと予測はつく。そんなことが聞きたいわけじゃないのに、急に尻込みしてしまった。
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