潤平

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待ちに待った金曜日。 「お先に失礼します。」 係長よりも先にそう言って、会社を後にする。 目配せはすべきじゃないし、いつも通りそっけなくなんて思いながらも、初デートがうれしくてついちょっと見てしまう。 にこっとやさしい笑みを浮かべて、 「お疲れ様。」 と他の同僚と同じように言った。 ホームに6時半に待ち合わせだったが、まだ会社の最寄り駅なので気は抜けない。20分毎に来る特別快速電車を待ってたから同じ電車になったかのように偶然を装い、会社からかなり離れた彼のお勧めのお店へ向かう。 お店に着いて席に案内されると、やっと隠し事をしなくていい環境になったとほっとした。 「退社するときにあなた、でれっとしてたでしょ。こっちもニヤつきそうでやばかったよ。」 「えっ。私でれっとしてた?やばー。」 「してた。してた。」 さっきまではばれないようにとドキドキしていた心臓が、急に二人ということを意識してバクバクしだした。 熱いおしぼりを手渡されると、係長は広げずに丸まったまま額や頬をそっとふいた。上品な感じだけど、人によってはおやじな行動だと思うかもしれない。でもそれも全く気にならない。好きって言う感情は不思議なものだ。 お店はイタリアンだったけどバーのようにお酒の種類も豊富で、始めはいつものようにビールを飲んでいた係長も、グラスホッパーというカクテルを頼んでからこう言った。 「サイドカーをぐっと飲む女性って格好いいよね。」 私はいつもモスコミュールやカンパリオレンジなどの甘めのカクテル専門だったから、どんなカクテルなのか分からず、試しに頼んでもらう。 普段飲まないカクテルグラスに入れられたサイドカーは、赤みを帯びて、ドラマに出てきそうなお洒落で大人な雰囲気を醸し出していた。 「うげっ。」 きついアルコールの味に一口で音を上げた。 格好いいには程遠かった。
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