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駆け落ちとかいつの時代だよと思いながら呆れる俺を見て華子さんは、
「まぁでも、唯ちゃん今週毎日出てくれてたから、明日の日曜くらいはゆっくり休んでもらおうかな。」
と、優しい微笑みを見せた。
これが本当の女性だったらどんなに幸福に感じられただろうか。
ありがとうございます。と一声かけて、俺はそそくさと私服に着替えてルンルン気分で更衣室を後にした。
ロングヘアのウィッグを付けていることも忘れて。
帰宅途中、俺が本当はバイトするはずだったコンビニに立ち寄ることにした。
無断で面接をすっぽかしてしまったため、謝罪の電話をしただけでは申し訳ないと思い、お菓子の一つでも買って売上に貢献できればといいなと考えていた。
二丁目のアーケードを抜けたすぐ先にコンビニはあった。
ネオンライトが眩しい二丁目にあるコンビニは、その白い蛍光灯を光らせてもネオンに負けて暗く見える。
ふとコンビニのガラスに映った自分を見て思わず目を見開いた。
「はあ?!」
そこにはグレーのパーカーを羽織りジーンズを履いたロングヘアの女性が映っていたからだ。
やっべ…俺借りてるウィッグ付けっぱなしだったー…
今から店に引き返してもいいが、そうすると自宅のアパートと逆方向になってしまう。せっかく明日休みをもらったんだから出来ればこのあとすぐ自宅に帰りたい。
そう思った俺は知り合いがあまりいない二丁目のコンビニで買い物くらいしても問題ないと考えとりあえずコンビニ入った。
適当にスナック菓子と炭酸飲料を手にしてレジへと向かう。
「276円になります。…500円お預かりします。」
よし、あとはマッハで帰るだけだ!
帰りたい気持ちが焦って俺はお釣りを受け取らずにコンビニを飛び出してしまった。
「あ、お釣り…」
なるべく下を向いていたためどんな店員かは知らないし、その声も駆け出していた俺には届かなかった。
「…名刺?」
店員は落ちていた名刺を拾い、お釣りと一緒にレジカウンターの下の棚に入れ付箋を付けておいた。
《忘れ物・お釣り224円、ロングヘアの可愛い女性、土曜の夜》
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