県庁の不思議

2/5
前へ
/143ページ
次へ
 毎日通った知事室を、松並は感慨深く眺めた。 「ここに来るのもこれが最後か」  ため息をつきながら、松並は部屋の整理に取りかかる。  救急車で運ばれた知事は、結局助からなかった。  病院の発表によると死因は食物アレルギーによるアナフィラキーショックで、昼食で食べたカニクリームコロッケが原因だそうだ。  ここで疑問が生じる。  知事にカニなどの甲殻類アレルギーがあることは松並も知っていた。  それゆえ、後藤県知事は県の職員時代に5年、県知事になって7年、合わせて12年、昼食はいつも県庁前の恵未女(えみな)食堂で特別に作ってもらっていた。  そしてその12年、恵未女食堂では確認に確認を重ねて徹底的にアレルゲン物質を排除していた。  その恵未女食堂がこんなうっかりミスをしたとは、正直信じられないのだ。  事実恵未女食堂の主人はあの日の定食にはカニクリームコロッケではなく、コーンコロッケを入れたと主張している。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加