県庁の不思議

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「だが恵未女食堂のことを気にしている場合じゃない」 「世間は今の所知事に同情しているがいつあの事で手のひらを返されるかわからない」松並はため息をつく。  ところで、松並が懸念しているあの事とはなにか。  それは食物アレルギーが起こった時の緊急措置についてである。  食物アレルギーによって起こるアナフィラキシーショックは非常に恐ろしい。  だが、アドレナリン(エピネフリン)を太ももの前外側に筋肉注射する事によって救急車が来るまで症状を押さえることができる。  そのため、最近の食物アレルギーの患者はアドレナリンを簡単に注射できるキットを常に持ち、非常事態に備えていることが多い。  しかし、アドレナリンの自己注射は、後藤知事が若い頃には推奨されておらず、それゆえ後藤知事も松並も、アドレナリンを用意しなければならないという意識は全くなかった。 「この事を知事の失態として叩くやからが出ないとも限らないな」松並はまたため息をつく。  それでも、なんとか気持ちを奮い立たせて知事の部屋を片付ける松並の眼に、不可思議な物が映った。
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