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「行こう?」
劇場が明るくなると、土御門は、ずっと握っていた手を離すと立ち上がった。
手が離れて、明かりがつくと、オレの頭は突然元に戻った。フリーズしていた頭が急速に回転し始める。
なんか、ものすごくまずいことをした気がする。
ヨロヨロと立ち上がり、空の紙コップを持った。
土御門はトレーに紙コップと、ポップコーンの箱を入れている。
空のポップコーンの箱を見たオレの脳裏に、さっきの自分が蘇る。
さあっと、血の気が引いて、オレはよろめいた。
「なな?」
「あのさ。」
オレはすがるように、土御門を振り返ると聞いた。
「さっきの、冗談だよね?
オレをからかったんだよね?」
土御門の表情が凍りつく。
ゆっくりと土御門は瞬きすると、口元に笑みを貼り付けて言った。
「そうだよ。」
オレは息を詰めていたみたいで、はあっとため息をついた。
頭の隅で、絶対そんなんじゃないって声がした。
でも、オレは心底ビビっていた。
土御門は男で、オレも男で、なのに簡単に誘いに乗ってしまった。
土御門の持っている魅力に抗えない自分が怖かった。
だから、土御門がおそらく苦い思いで出した答えを、そのまま飲み込むしかなかった。
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