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土御門が置いて行った皿を見ると、さっきとは違うドレッシングがかかっている。 フォークにちょっとつけて舐めると、うわ、これもおいしい。 ちょっと辛い感じ。エスニック? もしゃもしゃ・・・ おいしいよ!エクセレント! 「うわっ。めっちゃおいしそうに食べてる。」 斉藤さんがパスタの皿を持って、立っていた。 また見られた。 かあっと赤くなる。 「うまい?」 斉藤さんはパスタの皿をオレの前に置きながら、にっこり笑った。 オレはこくこくと頷く。 「これ、次のランチのメニューの試作なんだけど、食べてみて。」 トマトベースのソースの中に、大きめのエビがいっぱい入っている。上に軽くチーズがかかっていて、フォークを持ち上げると溶けるチーズが糸をひいた。 やばい、これ、めちゃくちゃおいしそう。 まずはエビを突き刺すと、口に入れた。エビは小麦粉かなんかまぶしてから焼いてあるみたいで、外側がカリッとしているのに、中はジューシー。 パスタをくるくる巻いて口に押し込む。トマトとチーズうまい。 「どお?」 ごくりと飲み込むと、オレは、感嘆の眼差しで斉藤さんを見て言った。 「おいしい。」 これがカリスマシェフの実力なんですか。すげえなこれ。オレ涙目。 斉藤さんはにやりと笑うと、 「かわいいな、七重ちゃん。」 ぽんぽんと頭をなでられる。 「触るな!」 押し殺したような小さな声。果物を綺麗に盛り付けた皿を持った土御門が、斉藤さんを引き離した。 「お店の中だよ。春樹くん。」 静かな声で斉藤さんがたしなめる。 「わかってるよ。」 目はまったく笑っていない笑みを浮かべて、土御門が答えた。 斉藤さんは周りをちらっと見た。斉藤さんは目立つ人だから、見ていた人もいたみたいだけど、肩を叩いたくらいにしか思っていないみたいだ。 「よく出来ました。」 苦笑を浮かべて斉藤さんが言う。 「うるさい。」 土御門は皿をオレの前に置くと、自分の席に座って、斉藤さんを睨みつけた。
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