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「あんなにおいしそうに食べてたのに、七重ちゃんが可哀想だろ。」 斉藤さんが、土御門の前に置いたパスタを取り上げて、オレの前に置く。 土御門は固まっているオレの顔を見て、歯をくいしばった。 斉藤さんは微笑んで言った。 「これは、春樹くんのいつも頼むやつ。 シンプルなペペロンチーノ。 普通のより、ちょっと辛めだから、苦手なら、唐辛子をはじいて。」 「は、はい。」 「ごゆっくり。」 最後まで悠然とした笑みを浮かべて、斉藤さんは厨房に戻って行った。 斉藤さんがいなくなると、土御門は固まっているオレを見て、頭を抱えた。 「俺、最低。」 頭をあげると、真っ直ぐにオレの目を見て言った。 「ごめん。 なな、すげえうまそうに食ってて、俺、嬉しかったのに。 店の中で騒ぎを起こして、飯をまずくするとか、マジで最低だ。 要さんはモテるし、ななが見たことないような顔で要さん見てるし、要さんはななに触るし。 すげえ腹が立って・・・」 「ほれ。」 オレはフォークでエビを突き刺すと、土御門の口元に近づけて軽く振った。 土御門は一瞬戸惑ったけど、ぱくりとエビを食べた。 「おいしい?」 土御門はこくりと頷いた。 「おいしいよね。」 オレはトマトのパスタを土御門の前に置いて、笑った。 土御門も釣られて笑う。 オレは土御門の好物だという、ペペロンチーノをくるくると巻いて口に入れた。 「おいしいね。 ・・・ 辛っ!!」 オレは慌ててアイスティーに手を伸ばした。土御門が立ち上がって、オレの背中を叩く。 「それ、俺用って言ってた? じゃ、かなり辛いかも。」 オレの飲み物がなくなったから、土御門は自分の烏龍茶をオレに押し付けた。 オレはそれをごくごく飲んだ。 「ごめんな。」 土御門はそっとオレの頭に手を置いた。
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