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「腹が~腹が~」
外に出たオレは呻いた。
「欲張るからだ。」
土御門が笑う。
「あんなにおいしいもの、ほっとけないじゃん!」
あの後もオレは百面相をしながらいろんなものを食いまくっていた。
腹がいっぱいなところに、スタッフさんが斉藤さんがお詫びですって、スイーツを差し入れして来て、これがまたおいしくて、別腹しちゃったんだよね。
「そういや、斉藤さんがこれくれた。」
土御門が会計中に斉藤さんが来て、名刺をくれたのだ。
「いつでもご馳走してくれるって。」
土御門が名刺を取り上げて、眺めて固まる。
「うわ、これ、要さんのガチ名刺じゃん。」
「え?」
「直通のメアドと電話だ。
相当ななのこと、気に入ったんだな。」
土御門は名刺を硬い表情で見ている。
「うは~。カリスマシェフに食いしんぼを認められた的な?」
オレは土御門が名刺を破り捨てるんじゃないかと思って見ていた。そうしてくれないかなあと、半ば期待もしていたんだけど。
土御門はオレに名刺を差し出すと何か押し殺した調子で言った。
「かもな。ケータイに登録しとく?」
オレは土御門をちらりと見た。
土御門の口元は強張っている。
なんだか、オレはなんだかそれが悲しくて、一生懸命考えていた。
土御門には笑っていて欲しい。
「あのさ、斉藤さんのお店って、メニューに値段のない様な店?」
「そういうのもあるな。」
「あの・・・あのさ。
さっき、可愛くおねだりしたら、連れてってくれるって言ったよね?そういう店。」
土御門は少し考えて言った。
「うん。」
「じゃあ、じゃあさ、
これはいらなくね?
ハルに頼めば、一緒に斉藤さんの店に行けるんでしょ?」
「そうだな。」
土御門は名刺をくしゃっとすると、自分のポケットに突っ込んだ。
土御門の口元が緩んで、微笑みが、晴れやかな笑顔が浮かぶのを、オレはうっとりと見ていた。
「んで、いつ可愛くおねだりするんだ?」
「しないよ!気持ち悪いだろ。」
オレは自分を抱いて、ぶるぶるして見せた。
「マジ?俺めちゃくちゃ期待してるんだけど。」
「いやいや、キモいわ~」
「ななは可愛いよ。」
うわ。また来た。
土御門のなめらかボイス。
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