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あたしは全力で走り、拓真君のいる場所を隔てていた憎らしい柵にしがみついた。
「拓真君っ!!」
ガシガシと乱暴に揺らす。
「……霧島、俺は実はもう死んでるんだ。……だからこの世界にこれたのかもしれない」
「……拓真君は生きてる、死んでないもん、生きてるもんっっ!」
自分で言ってて涙が出てくる。
「はは、ありがとな……」
拓真君はニコッと笑った。
その後、彼は全ての覚悟をした……そんな感じの顔つきになった。
「霧島、俺がリタイアしても気にするんじゃないぞ。俺の願いはお前が助かることだから……」
「拓真君っ!!」
再度、柵を揺らす。
――あたしもそっちに行きたいよ。
一体、あと何秒残ってるの?
あたしの不安をよそに、拓真君の乗っている船が沈み始めた。
どうやらタイムが0になってしまったらしい。
「やだ、拓真君っ……!」
「くそっ! 最後まで諦めるもんかっ……! 俺だってまだ霧島を助けてやりたいんだ」
拓真君は上着を脱ぎ、勢いよく水面に投げ捨てた。
まさか泳いでこちらに来るつもり?
でも拓真君の目の前にはあの巨大な魚がいる。
――無理だ。
食べられちゃうよ。
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