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研究所の食堂で、ジョシュはいつものようにBセットを注文した。
ユールベルに会えるのではないかと期待して、このところジョシュは少し遅めに来るようになったのだが、あの転機となった出会い以降は、一度も食堂では見かけていない。彼女は正規の休憩時間より後になることが多いのだろう。それだけに、あのとき会えたことは運命のような気さえしていた。
少しだけ人波の引いた食堂をぐるりと見渡す。
おそらくいないだろうと思っていたが、その日は窓際に彼女が座っていたのを見つけた。緩やかなウェーブを描いた金の髪と、後頭部で結ばれた白い包帯--ジョシュの胸はそれだけで熱くなる。今にも走り出したい気持ちを抑えつつ、彼女の方へゆっくりと足を向けた。
しかしその瞬間、ある光景を目にして、とっさに近くの柱に身を隠した。
ユールベルの前にサイラスが座っていたのだ。
別に隠れる必要はなかった。研究所の食堂で一緒に昼食をとっているだけで、やましい現場でも何でもない。二人ともジョシュの知り合いであり、声を掛けて同席を求めればいいだけのこと、邪魔をしたくなければ黙って離れればすむだけのこと。なのに--。
ジョシュは柱の陰になった席に腰を下ろし、後ろめたさを感じつつも、二人からは見えないであろうその場所からこっそりと聞き耳を立てた。
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