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「でも、そうはならないんじゃ……」
「前提条件が違うんだよ。限りなく絶対零度に近い温度で反応させれば、理論上は上手くいくはずなんだけど、実際に実験をするのは難しそうだね。今の研究所の設備では無理だって言われたよ」
どうやら二人は研究の話をしているらしい。食事中までこんな話をしなくても、と思うものの、そういう会話が出来る二人をジョシュはうらやましく思った。ジョシュは、サイラスとも、ユールベルとも、真面目に研究の話をしたことなどほとんどない。自分にそれだけの知識も能力もないからだろう。
しばらく研究の話が続いた。
ジョシュの手にはフォークが握られているものの、ただ握っているだけで、サラダの上で微かに揺れながらとどまっている。背後の二人が気になって、食事をするどころではなかった。
「ねえ、ユールベルって休日は何をしてるの?」
その質問にジョシュの心臓はドキリと跳ねる。
「別に……」
ユールベルはごまかすように口ごもった。ジョシュの名前は出てこない。ほっとしたような、残念なような、相対した気持ちがジョシュの心に渦巻いた。それでも、今はこれでいいのだと自分に言い聞かせる。
だが、話はこれで終わらなかった。
「じゃあさ、今度の休日、もし良かったらどこか遊びに行かない?」
「えっ……」
気楽なサイラスの言葉と、戸惑いを隠せないユールベルの声。そのとき二人がどんな表情をしているのか、気になって仕方なかったが、柱の陰から顔を出すなどという危険なことはできない。ただフォークを握りしめたまま、奥歯を食いしばり、じっとどちらかの次の言葉を待つ。
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