約束

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「あれは、あなたと会うことになるだろうと思ったから……」 「えっ?」  思わず口をついた短い声。  視線を落としたままの彼女を見つめながら、ジョシュは気持ちを落ち着けて、彼女の言葉の意味をよく考えてみる。つまり--彼女には誰かと約束があったわけではなく、自分との約束のために予定を開けておいてくれたということで--。  少しは、期待していいのか?  次第に鼓動が速さを増し、そして強くなっていく。体から飛び出さんばかりの動きがはっきりと認識できる。それでも、精一杯の平静を装うと、僅かにうわずった声で言う。 「じゃあ、来週でいいな」  ユールベルは小さく首を縦に振った。そして、ちらりと上目遣いにジョシュを窺う。視線が合うと、ジョシュは少し顔を赤らめながらぎこちなく笑いかけた。つられるように彼女も戸惑いがちに小さく笑った。  少し冷たくなった風が、彼女の長い髪と白いワンピースをふわりと揺らす。  ジョシュは彼女の方へ手を伸ばしたい衝動を抑えつつ、その手を小さく挙げ、またなと言って背を向けながら歩き出した。その足取りは軽い。薄暗くなった空を目を細めて仰ぐと、浮かれる気持ちを静めるように、大きく胸いっぱい深呼吸をした。
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